若旦那様は愛しい政略妻を逃がさない〜本日、跡継ぎを宿すために嫁入りします〜
 朝陽と時々飲みに行くようになったのは、彼が日本へ帰国した二、三年前からだ。
 
 彼は去年、初恋の女性だった砂羽(さわ)さんと結婚していた。

「朝陽と会うのは半年ぶりだな」

《だろう? 何時なら出られる?》

 壮二が電話の向こうで笑っているのが目に浮かぶ。

「そうだな……二十時には。あ、それと場所は銀座界隈以外にしてくれ」

《えー、銀座を闊歩しながら、若旦那~うちの店にいらして~って黄色い声をかけられるのを期待したのに》

 それが目的か。しかし、愛する妻がいる朝陽は違うだろう。奴も静かに飲みたいはずだ。

《おーっけぇ。新宿の会員制クラブなら?》

 そこならばホステス指名をしなければ男三人で飲めるだろう。

「では、二十時半に着くようにする」

《わかった。予約しておく》

「よろしく」

 俺は通話を終わらせ、巻き終えた反物を運ぶ直治常務を手伝った。
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