若旦那様は愛しい政略妻を逃がさない〜本日、跡継ぎを宿すために嫁入りします〜
しばらくしてバックヤードにある社長室に祖母が現れた。
「絢斗さん、パーティーのお着物が届きましたよ」
祖母のあとに、淡黄色の小紋を身につけた若い女性が、たとう紙に包まれた着物を両手に持ち入室する。たとう紙は着物や羽織などを保管するものだが、最近では不織布のものも多く出回っている。
彼女は祖母の姪(めい)の娘で、藤原(ふじわら)翠(みどり)子(こ)。大学卒業後に一般企業に就職したが職場が合わなかったようで半年で辞め、祖母の秘書になった。
うちで働いて六年目の翠子は、茶道、華道の師範免許を持っており、祖母のお気に入りだ。
中央のテーブルの上にたとう紙をふたつ置くと、翠子は二カ所で結んである布紐をほどき開いた。
俺は執務デスクを離れ、祖母の隣に立つ。
着物は青みがかった灰色である銀鼠色。羽織は濃い紫の菫色。その中間の色味を角帯に使用している。ひと目で最高級のものだとわかる。
「素敵ですね。さすがおばあさまのお見立てだ」
「上品なお色味でしょう? この美しいお着物は絢斗さんしか着こなせないわね。ねえ? 翠子さん」
「ええ。本当に素晴らしいお着物です」
上品に祖母に微笑む翠子は、俺より四歳年下の二十八歳。童顔で、洋服姿はまだ大学生に見られる。
「絢斗さん、パーティーのお着物が届きましたよ」
祖母のあとに、淡黄色の小紋を身につけた若い女性が、たとう紙に包まれた着物を両手に持ち入室する。たとう紙は着物や羽織などを保管するものだが、最近では不織布のものも多く出回っている。
彼女は祖母の姪(めい)の娘で、藤原(ふじわら)翠(みどり)子(こ)。大学卒業後に一般企業に就職したが職場が合わなかったようで半年で辞め、祖母の秘書になった。
うちで働いて六年目の翠子は、茶道、華道の師範免許を持っており、祖母のお気に入りだ。
中央のテーブルの上にたとう紙をふたつ置くと、翠子は二カ所で結んである布紐をほどき開いた。
俺は執務デスクを離れ、祖母の隣に立つ。
着物は青みがかった灰色である銀鼠色。羽織は濃い紫の菫色。その中間の色味を角帯に使用している。ひと目で最高級のものだとわかる。
「素敵ですね。さすがおばあさまのお見立てだ」
「上品なお色味でしょう? この美しいお着物は絢斗さんしか着こなせないわね。ねえ? 翠子さん」
「ええ。本当に素晴らしいお着物です」
上品に祖母に微笑む翠子は、俺より四歳年下の二十八歳。童顔で、洋服姿はまだ大学生に見られる。