若旦那様は愛しい政略妻を逃がさない〜本日、跡継ぎを宿すために嫁入りします〜
 祖母は翠子を俺の妻にしたいと考えていたが、俺たちにその気はない。翠子は品行方正で非の打ちどころがなく、学生でいえば学級委員長のような生真面目な性格だ。
 
 だが、俺からしてみればおもしろみがない。将来、白髪になるまで人生を共にしようとは思わない女性だ。翠子も俺のような冷たい男は遠慮願いたいに違いない。
 
 祖母は着物を手に取り、俺の肩に当てて皺のある顔をほころばせた。

「当日が楽しみだわ。パーティーのお料理も、皆さまに楽しんでいただけるように趣向を凝らしたんですよ。お庭も素敵なホテルですから、晴れになるといいのだけど」

 今の祖母の関心事は俺の結婚相手を見つけることだ。パーティーなどで妻になる人を見つけられるわけがないが、祖母はもう高齢で後継者計画に焦っている。だから面倒だとは思いつつも、祖母のためにパーティーを開くことには異議を唱えなかったのだ。


 二十時過ぎ、俺は呼び出したハイヤーに乗り、待ち合わせの場所へ向かった。

 会員制クラブのドレスコードは、男性はスーツ、女性はドレス着用と決められている。

 俺は、着物からフルオーダーのスーツに着替え、亡くなった父から譲り受けた、世界三大時計に入るブランド物の腕時計をつけた。
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