若旦那様は愛しい政略妻を逃がさない〜本日、跡継ぎを宿すために嫁入りします〜
 このフロアは客のプライバシーが重視され席が離れており、ラグジュアリーなこげ茶色をしたビロードのソファが置かれている。
 
 窓側のいつものソファ席に朝陽は座り、窓へ顔を向けていた。
 
 フライト帰りのようだ。制服を着た朝陽は久しぶりだった。ジャケットを脱いだワイシャツ姿だ。
 日本でもトップを争う航空会社『ALL(オール) AIR(エア) NIPPON(ニッポン)』通称AAN(エーエーエヌ)の最年少機長。

 眉目秀麗の朝陽はパイロットの制服を着ていると目立ちすぎる。だが、ワイシャツでも同じことだ。肩章には金の四本ライン、胸章、その姿でも十分注意を引いている。
 
 近づく俺に気づいた朝陽は振り返り、手を挙げる。窓に俺の姿が映っていた。

「仕事だったのか? おつかれ」

 朝陽へねぎらいの言葉をかけると、彼はふっと笑う。

「絢斗も仕事だったんだろう? おつかれ。着替えていたら間に合わないと思って急いで来たんだが、そうでもなかったな」

 俺は朝陽の対面のソファへ腰を下ろす。
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