若旦那様は愛しい政略妻を逃がさない〜本日、跡継ぎを宿すために嫁入りします〜
 私は父を店の外に連れ出すと口を開く。

「パパ……、突然どうしたの?」

 父と最後に会ったのは母が入院した二年前だ。連絡を入れると、すぐに日本から会いに来てくれた。

「澪緒、元気だったか? もう二十二歳か」

 たしか父は五十代半ばになるはず。二年前に会ったときより白髪が目立つようになっていた。

「う、ん……相変わらずよ。あ、先月はありがとう」

 私は土産物店のアルバイトで生計を立てているが、父は養育費を払い終えた今も時々生活費としてお金を振り込んでくれる。大学も父のおかげで卒業できた。

「いや、当然だよ」

 表情が硬かった父は口元を緩ませた。

「少し話があるんだが、今夜夕食をどうかな? 突然ですまないが。予定は入っていたかな?」

「七時で上がるから、その後なら。ホテルはどこに?」

 父はビバリーヒルズにあるスター御用達の高級ホテルの名前を言った。ここからならバスで三十分ほどのところだ。

「じゃあ、八時……あ、八時半にロビーでいい? 一度、アパートに戻らないと。この格好じゃあ……」

 自分の姿を思い出して、言いよどむ。

「そうだな。だが時間がもったいない。近くでワンピースでも買って着替えるといい」

 父はポケットから財布を取り出して、三百ドルを私に握らせようとする。
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