若旦那様は愛しい政略妻を逃がさない〜本日、跡継ぎを宿すために嫁入りします〜
「絢斗が嫁さん探し?」

 朝陽は飲みかけていたのをやめて俺を驚いたように見る。俺から思わず出たため息に、壮二が代わりに話し始める。

「お得意さまを呼んだパーティーを開くんだよ。招待客は娘や孫をここぞとばかりに連れていくんじゃないかな? 名付けて、御子柴屋の若旦那に見初められるのを夢見ようの会だ」

 壮二の説明は間違ってもいない。俺はなにも言わず、酒をあおるように喉に流し込む。

「そんなことをしなくてもモテるんだから、いざとなれば結婚するだろう?」

 朝陽が驚き、壮二が大きく首を左右に振る。

「あのおばあさまがそれで納得すると思うか? 名門の御子柴屋の跡取りには最高の女性でなければな」

「最高の女性ならなおさらそんな会で見つかるとは思わないが」

 俺を肴にふたりが談義している間に寿司が運ばれてきた。銀座にある一見さんお断りの寿司店と遜色ない寿司をここでは食べられる。

「母さんとしおりんが出席するって言ってたよ。しおりんは若旦那に近づく令嬢たちを見物して楽しむらしい」

「結婚した妹をまだ、しおりんなんて呼んでいるのか?」

「そうだ。俺の義姉さんになったんだ。しかも一児の母だぞ?」
 
 大トロを口に入れようとした朝陽も手を止め同調する。
 
 壮二の妹は、朝陽の兄でAANの専務取締役である桜宮優成(ゆうせい)氏と結婚した。桜宮家と一条家は親戚関係になり、一層賑やかになったように見える。うちのような跡取り問題が勃発している小家族には羨ましい限りだ。

 俺たちはその後、バーボンを何杯か飲んでそれぞれタクシーで帰宅した。
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