若旦那様は愛しい政略妻を逃がさない〜本日、跡継ぎを宿すために嫁入りします〜

「美香(みか)ちゃん！　あなた、うちの子をどうしようと!?」

「えっ？」

　母親は嫌悪感たっぷりな顔をして子供の手を引っ張り、呆気に取られている彼女から引き離した。

「うちの子を連れていこうとしたんでしょ！」

　迷子になっていた女の子の手伝いをしようとしていた彼女が可哀想になった。

「よくも話を聞かないで決めつけますね？」

　俺は彼女たちのもとへ近寄り、母親に言い放つ。

「娘さんが迷子になって泣いていたので、彼女が一緒に捜してあげると言うのを聞いていました。あなたは彼女にお礼を言うべきではないでしょうか？　他にも目撃者はいますよ」

　俺の援護に母親は当惑したのち、顔を赤らめて口を開く。

「ご、誤解だったようね。ありがとう。美香ちゃん、どうして離れたの？　行くわよ」

　母親は子供の手を引きながら、さっさとその場を立ち去った。

「ママが見つかってよかった」

　あんな言い方をされたのに、彼女の口から出た言葉に俺は目を見張った。

　普通なら憤慨しているところだろうに、彼女は綺麗な顔で微笑んでいた。