若旦那様は愛しい政略妻を逃がさない〜本日、跡継ぎを宿すために嫁入りします〜
「君は、心が広い人なんだな」

 俺の声に彼女はハッとなり、目と目が合う。次の瞬間、彼女は目を泳がせ、「ありがとうございました」と言って立ち去っていった。

「なんなんだ……?」

 彼女の態度が解せなかったが、女の子への微笑ましい姿を思い出し、「ふっ」と笑い、ラウンジへ向かった。

 先に到着していた寿葉さんは、黒地に大輪のユリがあしらわれた着物姿でゆったりとくつろいでいる。アイスティーを飲んでいるだけなのに色香を漂わせた彼女に、周りの男性たちがチラチラと視線を送っている。

 俺は琴葉さんのもとへ歩を進めた。

「寿葉さん、お待たせしました」

 二カ月前、寿葉さんの五十五歳の誕生日パーティーがあったと記憶しているが、その美貌は四十代前半に見える。

「若旦那、来てくださって嬉しいですわ。今日はスーツですのね。素敵ですわ」

 俺は寿葉さんの前に腰を下ろした。

「寿葉さんもいつもながら美しいです」

「まあ、リップサービスがお上手ですこと。今日はスーツのせいか、お店にいるときと雰囲気が違いますわね。うちの若い子たちが、若旦那に会いたいと首を長くして待っておりますのよ。このあとはぜひ」

「寿葉さん、同伴は遠慮しておきますよ」

 上顧客の寿葉さんに夕食をごちそうし店へ送ったあと、帰宅するつもりだ。

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