若旦那様は愛しい政略妻を逃がさない〜本日、跡継ぎを宿すために嫁入りします〜
 このホテルのロビーで西澤という男と一緒にいた女性じゃないか。

「これは振袖と言います」

 彼女は流暢な英語で、着物について説明している。
 
 日本人? だとしても、生まれ持っての発音だ。そういえば、迷子の女の子に話しかけていたとき、日本語の発音が少し違っていた。彼女はうちの招待客なのか?

「美しい! 写真を一緒に撮ってくれませんか?」

「もちろん。どうぞ!」

 振袖を着た女性は通り過ぎるホテルスタッフを呼び止め、写真を撮ってくれるようお願いする。その日本語には英語のようなイントネーションが混じる。

 撮ってもらった写真を確認した外国人男性は顔をほころばせ、夫婦は機嫌よく去っていった。

 俺は彼らに手を振っている女性に近づき、英語で話しかける。

「俺とも写真を撮ってくれませんか?」

「私でよかったら……えっ!?」

 英語で快諾した彼女は、横に立つ俺へ顔を向けた。次の瞬間、彼女の猫のような綺麗な目が大きく見開かれた。 
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