若旦那様は愛しい政略妻を逃がさない〜本日、跡継ぎを宿すために嫁入りします〜

ロサンゼルスから日本へ

 私は父の頼みを了承することにした。
 
 世の中、うまくいかないことばかり。母が病気になる前から今日まで、ひとりで突っ走ってきたから疲弊しているのだろう。そうでなければ、見ず知らずの男性に見初められるために帰国するなどあり得ないことだ。
 
 パーティーには御子柴屋の財産や、端整なマスクの持ち主である若旦那目当ての女性がわんさか出席するらしい。だから、私が彼の目に留まることは、砂浜に落としたサングラスを捜すくらい難しい。
 
 アルバイト先には日本へ一時帰国すると説明し、戻ってきたらまた働けることに。モデル事務所へも近々の仕事は……と言ってもあまりないだろうけど、受けられないと連絡した。アパートの冷蔵庫の中も綺麗にして、パーティーの一週間前に日本へ飛んだ。
 
 きっとまたすぐ戻ってくる。
 
 旅客機の中で、しだいに日本へ行くのが楽しみになってきた。
 
 物心ついてから初めての日本だ。母に日本語を教えられてきたので、イントネーションもおかしくないはず。漢字も難しいものじゃなければ大体は読める。
 
 パーティーの件を除けば、日本滞在は楽しいものになるはずだ。
 
 そんな風に気軽に考えなければ、万が一、父の望みが叶った場合の不安を払拭できなかった。

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