若旦那様は愛しい政略妻を逃がさない〜本日、跡継ぎを宿すために嫁入りします〜
 車はハイウェイに乗り、スピードを上げて、東京に向かっている。

 ここが、私が生まれて五歳までいた国……。

 滞在期間中、せっかく日本へ来たのだから、前もってガイドブックでチェックしてきた場所へ行こうと思っている。

「滞在するホテルはパーティー会場と同じところを取った。振袖での車移動は避けた方がいいと思ってな」

「パーティーは一週間後よね? それまでは出かけてもいい?」

「もちろん。ただ、日本は初めても同然なんだ。気をつけるように」

 父の了承を得て、牛革の大きめのショルダーバッグからガイドブックを取り出すと、明日の予定を立て始めた。


 父の言う通り、道路が混んでいて、ホテルに到着したのは夜の八時半を回っていた。

 チェックインの手続きをしている父をロビーで待っていると、迷子の女の子がママを捜して泣いていた。

 一緒に捜そうとしたところへ母親がやってきた。母親も子供がいなくなってパニック状態だったのだろう。私にひどい言葉を投げつけたけれど、助けてくれた人がいた。

 驚くことに、御子柴絢斗氏だった。こんな偶然ある?

 私は気が動転して、逃げるようにして去り、柱の陰に隠れた。彼の姿が見えなくなり、私を捜している父のもとへ戻る。
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