若旦那様は愛しい政略妻を逃がさない〜本日、跡継ぎを宿すために嫁入りします〜
「はい。じゃあ……、気をつけて帰ってね」

 父は笑みを浮かべてその場を立ち去った。
 
 今日は土曜日だ。家族に気を遣って帰宅してもらったけれど、パパはレストランで食事したかったのかな……。
 
 私は渡されたカードキーに印字されている部屋番号を確認して、エレベーターホールへ進む。
 
 素敵な高級ホテル……。
 
 部屋は九階のスーペリアルームだった。
 
 入ってすぐの荷物置き場に私のキャリーケースが置かれていた。
 
 クイーンサイズのベッドがひとつと、窓際に二脚の椅子とテーブル、それに書き物ができるデスクの横に大きなテレビがあり、快適に過ごせそうな空間だった。
 
 ベッドの端に腰を下ろして「はぁ~」と、ため息が漏れる。

 とうとう来ちゃった……。

 ひとりになると、急に寂しくなる。

「きっと、ここはホームじゃなくアウェイだからよね」

 自分がかつて住んでいた国だけど、五歳までの記憶はほとんどなく、断片的に幼稚園の制服を着て遊んでいたのが思い出されるだけ。

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