若旦那様は愛しい政略妻を逃がさない〜本日、跡継ぎを宿すために嫁入りします〜
 そして土曜日がやってきた。
 
 十一時からのパーティーに備えて、私は朝の六時半からホテルの美容室で、髪をセットしてもらっていた。
 
 部屋に戻り待っていると、八時過ぎに父と共に年配の女性がやってきた。

 着付けをしてくれるスタッフかと思ったが父に紹介されて驚く。ショートカットのその女性は父の後妻だったのだ。

「澪緒さん、綺麗になったわね。お母さまが亡くなられて心配していたのよ」

 彼女には私と一カ月違いの息子がいる。父と不倫の末、母の後釜に入ったのだ。

「パパには気を遣ってもらっていました。ありがとうございます」

 両親の離婚の原因となったこの女性に、私はぎこちなく表情をこわばらせて口にした。

「澪緒、家内は着付け教室の先生なんだよ」

 私は心の中でため息をつく。

 母の敵だった人に娘の着付けをさせるなんて……。

 人の気持ちに無頓着な父だからこそ、不倫ができたのだろう。

「はい。わかりました。よろしくお願いします」

 彼女に頭を下げる私に、父は「仕上がりが楽しみだな」と目尻を下げて部屋を出ていった。

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