若旦那様は愛しい政略妻を逃がさない〜本日、跡継ぎを宿すために嫁入りします〜

　ふたりきりの気まずい空気の中、着付けが始まった。父の奥さんは着付けの手順について説明する以外は、ほとんど口を開くことはなかった。
　
　私も口を開かず、居心地の悪い時間が流れ、支度がすべて整ったのは二時間後だった。
　
　着付けが終了し、父の奥さんはそこで初めて私の振袖姿に満足そうな顔になる。

「澪緒さん、あなたは主人の子供だけど、私にとっては他人なの。今日のパーティーで若旦那に気に入られなかったら、すぐにアメリカへ帰ってくださいね」

「……はい。そのつもりです」

　彼女が前妻の娘である私を嫌うのは無理もないが、面と向かって言われてしまうとやるせなくなる。

「本当に主人は仕事のこととなると、手段を選ばないのよね。遠く離れた娘でさえも駒に使うなんて、可哀想な澪緒さん」

「今まで父には援助してもらっていました。少しでも恩返しができればと思ったので、自分が駒だなんて考えていません」

　自分の意思で日本へ来たのだ。