若旦那様は愛しい政略妻を逃がさない〜本日、跡継ぎを宿すために嫁入りします〜
「澪緒! なんて美しいんだ! 自慢の娘だ」

 興奮気味に褒められるが、父のうしろに彼女がいるせいで素直に喜べない。

「……綺麗な着物のおかげよ」

 父が用意してくれたこの振袖はとても値の張るものらしい。

 生まれて初めての振袖を身にまとった私は、一瞬誰なのだろうというくらい様変わりしていた。

 帯で締めつけられて、なにも食べられないほど苦しいが、この姿が気に入った。

「澪緒さん、洗面所で口紅を直してきた方がいいわ」

「わかりました」

 着物に合わせて紅赤と言われる口紅を手渡され、洗面所へ向かう。

 鏡に顔を映すと、それほどリップは落ちていなかったが、ひと塗りしておく。

 部屋に戻ろうと洗面所のドアを開けたとき、声が聞こえてきた。

「あなた、いくらなんでも、あんな高いお着物を用意するなんて」

 父の奥さんの苛立った言葉に足が止まる。

「それくらいのことをしなければ、若旦那の目に留まらないだろう」

 妻をなだめる父。
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