若旦那様は愛しい政略妻を逃がさない〜本日、跡継ぎを宿すために嫁入りします〜
「お嬢さん、ありがとう。素敵な一日を!」

「おふたりも、素敵な一日を過ごしてください。いいご旅行を!」

 普通ならハグをして別れるところだが、振袖姿に遠慮したのか、ふたりは皺のある顔をほころばせて手を振って去っていった。

 夫婦のおかげで少し気分が明るくなったかも……。

「俺とも写真を撮ってくれませんか?」

 ちょっぴりリラックスしたところへ、今度は若い男性の英語が聞こえてきた。

 まだパーティーの時間は大丈夫よね?

「私でよかったら……えっ!?」

 英語で返事をしながら顔を向けて、声をかけてきた人物に唖然となった。

 驚くことに、今日のパーティーの主役である御子柴絢斗さんが立っていたのだ。

「では失礼」

 彼は颯爽とやってきて、手に持っていたスマホを自分たちにかざし、心の準備もないままあっという間にボタンを押した。

 写真を撮ってすぐさまスマホは胸元にしまわれる。

 前に顔を合わせたときは気が動転して逃げてしまったけれど、今度はちゃんとご挨拶をしなきゃ。

 こんなチャンスはもうないかも。
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