若旦那様は愛しい政略妻を逃がさない〜本日、跡継ぎを宿すために嫁入りします〜
 なんなの? あの人。

 私の話なんて聞く耳持たずで、行ってしまった。写真も準備ができていないのに勝手に撮っちゃったし、きっと変な顔をしているはず。失礼な人っ!

「澪緒、ここにいたのか。捜したじゃないか。もう時間だ。行こう」

 憤慨しているところへ、レストルームへ行っていた父が現れた。

「は、はい」

 先ほどの彼の印象から、行っても無駄ではないだろうかと思う。振袖がよく似合っていると言ったのは単なる社交辞令だろう。

 足が動かない。

「澪緒? なにをしている?」

 私がついてこないことに気づいた父に手招きをされ、下唇を噛んで一歩踏み出した。


 パーティー会場の入り口で、着物姿の若い女性に招待状を見せた父は、私を中へ進ませる。

 スーツを着た男性を除き、ほぼすべての女性たちが着物姿で参加しており、会場内はありとあらゆる色で溢れかえっていた。さすが、老舗の呉服屋のパーティーだ。

 父は着物ではなく、チャコールグレーのスーツを着ている。

< 55 / 158 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop