若旦那様は愛しい政略妻を逃がさない〜本日、跡継ぎを宿すために嫁入りします〜
 だけど、さっきのは冷たい視線だった……なんであんな風に私を見るの?

「澪緒、まだ時間がかかるようだ。食事をしなさい。私は知り合いに挨拶してくる」

「はい」

 父は私から離れ、知り合いの男性の方へ歩を進めた。

 私を知り合いに紹介できないのね……。うまく使おうとしている娘だもんね。

 急に息苦しくなって、大きく深呼吸をする。

 人に酔っちゃったのかも。帯が苦しくて、食事もしたくない。

 窓へ近づき、慣れない草履でパーティー会場を離れる。

 庭園には薄いピンク色のコスモスや赤いサルビアが咲き誇り、金木犀のいい香りが鼻をくすぐる。

 滝がある柵のところまで来て足を止めた。

「あ、虹……」

 滝の水しぶきでうっすらと虹を作っていた。

 ほとんど入らない小さなバッグを開けて、スマホを取り出して虹を撮る。ついでに虹をバックに自撮りもする。

 虹には母との思い出がある。
< 57 / 158 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop