若旦那様は愛しい政略妻を逃がさない〜本日、跡継ぎを宿すために嫁入りします〜
 ハワイへ行ったとき、あれは十四歳くらいだった。

『澪緒、見て。虹が出ているわ。虹は幸運のサインで縁起がいいのよ。いいことが起こりそうね』

 あのとき、虹でいいことが起こったのか覚えていない。

 人工的に作られた虹なんて期待できないわね。このままパーティー終了までここにいたい。

 俯いて撮った写真を確認していると、スマホに影が落ちた。ハッとして顔を上げた先に、驚くことに御子柴絢斗さんが立っていた。
 
 彼の姿に心臓が大きく跳ねる。
 
 なぜこんなところにいるのか。彼のうしろへ視線を向けるが背後には誰もいない。
 
 当惑していると――。

「援交している男と御子柴屋のパーティーへ来るとは、節度に欠けていないか?」

「えん……こう……?」

 彼の言っている意味がわからず、首をひねる。そしてなぜここに現れたのか。ひとつわかるのは、彼が怒っているように見えることだ。

「とぼけるのか? 君の〝パパ〟はその美貌で俺を誘惑させて、弱みでも握るつもりなのか?」

 滔々と話しかけられるけど、理解できたのは〝誘惑〟という言葉だけだった。

< 58 / 158 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop