若旦那様は愛しい政略妻を逃がさない〜本日、跡継ぎを宿すために嫁入りします〜
 彼は私が御子柴屋のパーティーに出席したのが気に入らないの? 誘惑は言いすぎだけど、あながち間違ってはいない。

「パパと出席しているけど、そこまで言われるなんてひどいです」

 思わず反論する。

 気に入られるどころか、彼はなぜか私に嫌悪感たっぷりだ。

 もう終わったと、心の中で父に謝る。ううん。父に謝る必要なんてない。

 そこへ駆けてくる足音が聞こえて彼が振り返り、私も彼の背後へ視線を向けた。

「澪緒! こんなところで! ええっ!? 御子柴さんと一緒にいたのか」

 彼がいると思わなかったのか、父は落ち着きを失っている。父は若干の息切れをさせながら、私の隣に立ち頭を下げる。

「御子柴さん、ご無沙汰しております。株式会社NISHIZAWAの西澤でございます。これは娘の澪緒です。ぶしつけで恐縮ですが、こちらの身上書をお受け取りください」

 腕組みをしている御子柴屋の若旦那に、父はへつらうような笑みを浮かべながら封筒を渡す。

 その姿に心の中でため息をつく。

 もう私の印象は悪いのに……。

 ところが、どういうわけか彼は涼しげな目を大きくさせる。

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