若旦那様は愛しい政略妻を逃がさない〜本日、跡継ぎを宿すために嫁入りします〜
 そこでロッカーにあるボディバッグが目に入り、「あっ!」と声を漏らす。
 
 服に相応しいバッグまでは気が回らなかった。

「まあ、いいか」

 ボディバッグからリップを取り出して、小さな鏡を覗き込み塗る。

 猫のような目だと言われ、目鼻立ちははっきりしている。身長は百六十センチと、アメリカでは低い部類にはいるが、手足は長く、長い黒髪は艶やかだ。

 私はこの店でアルバイトをして生活費を稼ぎ、ハリウッドで女優を目指している。母が生前、私が女優になるのを熱望していたこともあって、やれるだけやろうと頑張っているのだ。

 小さい頃は母に連れられてスタジオへ頻繁に行っていたせいで、モデルエージェントにスカウトされ、ブランド子供服のモデルをしていたこともあった。

 ティーンエイジャーになると、私よりも、ブロンドで胸の大きい女の子の方がちやほやされる現実を受け入れて普通の生活に戻ったが、現在この黒髪を武器にヘアケア商品のモデルの仕事がぽつぽつ入っている。

 支度を終え、久しぶりの新しい服に笑みを漏らし裏口から外に出ると、バス停を目指した。

 昼間はTシャツ一枚で十分だけど、夜になると肌寒くなる。カーディガンを買って正解だった。ロッカーにあるのはカリフォルニアの空のような真っ青なパーカーだから。
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