若旦那様は愛しい政略妻を逃がさない〜本日、跡継ぎを宿すために嫁入りします〜
「娘さん?」

 封筒を受け取った彼がポツリと確認の声を漏らすと、父は「別れた妻が引き取った子供なんです」と誇らしげな表情になる。

「……西澤さん、娘さんとふたりにさせていただけますか?」

 えっ?

 彼の言葉に私は目をパチクリさせる。

「それはもちろんかまいませんが」

「ではお願いします」

 父は一瞬戸惑ったものの、満面の笑みを私に向けてパーティー会場へと戻っていく。

 その背を見送っていると、振袖姿の女性たちが遠巻きにこちらを見ているのに気がついた。

「……ここにいてもいいんですか? 皆さんが待っていますよ?」

 彼も父が去るのを振り返り見ていたから、パーティーの参加者が私たちの様子をうかがっているのがわかったはずだ。

「俺は君と話をしたい」

「……どう見ても、あなたは私を不快に思っていますよね? 私と話す必要はないのでは?」

「君を知りたいと思ってね」

「私を……? 無駄な時間を使う必要はないです。正直に言います。御子柴屋と関わりを持ちたい、今日のパーティーに出席して若旦那に気に入られてほしいとパパに頼まれたから来ただけです。借金の返済を条件で」

 会場を出る前に感じた息苦しさが再び襲ってきて、顔が歪む。
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