若旦那様は愛しい政略妻を逃がさない〜本日、跡継ぎを宿すために嫁入りします〜
「西澤社長がうちと業務提携を結びたがっていたのは知っている」

「両親が離婚した後、ママは私を連れてロスに行きました。二年前にママが亡くなるまで援助をしてくれていたので、パパの手助けができればと思ったんです」

 でも、もう恩を感じていた気持ちはなくなっている。他の金持ちと結婚させられるのも絶対に嫌。

「手助け?」

「恩があるので。もう行ってください」

 話ができないくらいの動悸と胸の苦しさに足元をふらつかせ、転ばないように手すりに手を置く。

「どうした!?」

「なんか……、苦しくて……」

「苦しい? 失礼する」

 帯の間に彼は指を入り込ませようとしていた。

「きゃあっ! なにをするんですか!」

「動くな」

 彼の手から離れようとすると、肩を押さえつけられる。

「締めすぎているし、それだけ苦しいのであれば、胸紐や腰紐の位置も悪いようだ」

 そう言って私の背後に回り、帯の位置を直している。

 ほんの少し呼吸が楽になった気がする。
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