若旦那様は愛しい政略妻を逃がさない〜本日、跡継ぎを宿すために嫁入りします〜
「帯枕を少し緩めたがまだ苦しいはずだ。着付けをした人は素人みたいに下手だな」

 だからあのとき、父の奥さんは私を見て満足げに笑っていたんだ。

 着付け教室を開いているくらいなのだから下手ではなく、故意だったに違いない。

「ありがとうございます。もう平気です。主役は戻らないとダメです。行ってください。私は部屋へ戻りますから」

「部屋? 君はここに泊まっているのか?」

「はい。ロスから来たので」

「ロスからわざわざ?」

「御子柴さん、私のことはかまわず早く戻ってください」

 こちらを遠巻きに見ている着物姿の女性の数が多くなっている。

 そのとき――。

「絢斗さん! こんなところにいらしたのね」

 父が彼の祖母だと言っていた女性が、年を取っているとは思えないほど背筋をピンとさせて、つかつかとやってきて私たちの前に立った。

「このお嬢さんはどちらのお嬢さんかしら?」

「西澤社長のお嬢さんですよ。おばあさま、彼女に決めました」

「ええっ!?」

 そう仰天したのは私と彼の祖母。そして近くにいた、目をハートにしていた女性たちだ。

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