若旦那様は愛しい政略妻を逃がさない〜本日、跡継ぎを宿すために嫁入りします〜
「もういいんです」

 私は強く言って彼から目を逸らし、横を向く。

「ぶっきらぼうだな。もういいとは?」

「父はあなたに気に入られなかったら、別のお金持ちの男性と結婚させようと思っているんです。私をビジネスの駒に使おうとしているのがわかったんです。あなたがダメだったら仕方がないと、言ってくれていたのに」

 そう言うと、彼はおかしそうに笑う。

「どうして笑うんですか?」

「君は俺でも他の男でも、金持ちなら誰でもかまわないんじゃないのか?」

「えっ? 違います!」

「違う? どうして?」

「あなたはロスで写真を見ましたから。素敵な人だと思いました」

 急に彼はお腹を抱えて笑いだした。さっきよりも激しく。その姿に私はあっけにとられる。

「君は率直に言うんだな。俺にひと目惚れをしたってわけか」

「か、勘違いしないでください。私は男性を信じられないんです。だから、ひと目惚れではなく――」

「どうでもいいのなら、他の金持ちの男と結婚してもいいんじゃないか?」

 それが私にもわからないけど、彼以外の人は嫌なのだ。でも、その気持ちがどうしてなのかわからない。

< 68 / 158 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop