若旦那様は愛しい政略妻を逃がさない〜本日、跡継ぎを宿すために嫁入りします〜
「父親孝行したくなければそれでもいい。俺は君を選ぶと招待客の面前で宣言したんだ。今さら逃げられても困る」

「そんな……戻ってから誰か他の女性を――」

「今、なかなか戻らない俺たちに、みんながどんな想像をしているかわかるか?」

 彼の言うことは想像がつく。部屋にこもる男女がすることを……。けれど、着物なのだからそんなことは考えないはず。

「着物は意外と便利なんだ。こうやって開けば」

 ふいに彼の手が私の着物の膝のあたりへ伸び、パサッと布を広げた。私の膝頭があらわになり、落ち着きをなくす。

「や、やめてください」

 直そうと裾に手をやると、先に彼の手で着物は綺麗にもとに戻される。

「俺は君が気に入った。俺の嫁になれよ」

 彼と結婚?

「なにも私のことを知らないのに?」

「これから知ればいい。君は俺にひと目惚れしてくれたらしいが、俺も君のその目が好きだな。俺のことは絢斗さんと呼んでくれ。さん付けに慣れなければ絢斗でもいい」

「私の目が好みだと?」

 私は眉をひそめ、困惑しながら聞いた。
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