若旦那様は愛しい政略妻を逃がさない〜本日、跡継ぎを宿すために嫁入りします〜
「若旦那さま」

 彼女は絢斗さんの姿に、小さい歩幅で近づいてくる。

「翠子、紹介しよう。彼女は澪緒さんだ。俺が選んだ人だ。これからよろしく頼む」

「澪緒さま、大奥さまの秘書の藤原翠子と申します」

 とても上品な所作でお辞儀をされる。

「澪緒です。よろしくお願いします」

 よろしくお願いします、と言っていいのかわからない状況だけど、私も頭を下げる。

「大奥さまがお待ちです」

「ああ。わかっている。澪緒さん、行こう」

 彼は私の手を引いて会場の中へ入り、テーブルに着きお客さまと話をしていた彼の祖母に近づいた。少し離れた場所にいる父の姿を目の端で捉えた。

「おばあさま、お待たせしました」

 孫に気づいた彼の祖母は話を中断して、慌てて立ち上がる。余裕のない、老舗呉服屋の大奥さまらしからぬ動きだ。それほどこの件に戸惑っているのだろう。

 大奥さまは鋭い目つきで私を見遣る。私が孫の嫁として相応しいのか見極めようとしているみたいに。
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