若旦那様は愛しい政略妻を逃がさない〜本日、跡継ぎを宿すために嫁入りします〜
 ハイヤーは古めかしい木で造られた門前に止まった。運転手はトランクから荷物を出し、私たちは車から降りる。

「ここがうちだ。明治からの建物だが、リフォームを何度もしているから不自由はないと思う」

 絢斗さんは私の着物が一式入っているカバンを持ち、運転手がキャリーケースを玄関まで届けてくれる。

 門から玄関までの距離に驚きながら、きちんと刈り込まれた木々のある庭も素敵だと眺める。

「ありがとうございます」

 キャリーケースを運んでくれた運転手にお礼を伝えると、運転手は頭を下げて車へ戻っていった。

 レンガ造りのモダン建築の二階屋はレトロ感溢れ、日本で育っていない私だけれど、こういった建物が好きだとひと目見て思った。

 内側から引き戸が開けられ、翠子さんが姿を見せる。

「おかえりなさいませ。大奥さまがお待ちです」

「ただいま。翠子、澪緒の振袖一式をクリーニングに出して、西澤社長に送ってくれ」

 絢斗さんが着物の入ったカバンを翠子さんに渡したところで、年配の男性が現れた。

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