若旦那様は愛しい政略妻を逃がさない〜本日、跡継ぎを宿すために嫁入りします〜
「若旦那さま、おかえりなさいませ」

「ただいま。澪緒、家のことを任せている江古田だ」

 今まで〝さん〟付けだったのに、突然、澪緒と呼ばれ、鼓動がドクッと跳ねた。

 アメリカではむしろ呼び捨ての方が慣れているのに、なんでドキドキしちゃうの……?

「澪緒です」

「江古田と申します。若旦那さま、大奥さまがおひとりでいらしてくださいとのことです」

 江古田さんの私を見る表情は硬いように思える。なぜだろうか。

「わかった。澪緒を部屋に案内してくれ」

 絢斗さんは家の中へ上がり、正面のドアの向こうへ消えていった。

「どうぞこちらへ」

 スニーカーを脱ぎ、一段高いつやつやに磨かれた床に上がる。

 江古田さんが出してくれたスリッパへ足を入れ、キャリーケースへ手を伸ばしたところで厳しい声が飛んでくる。

「こちらは車輪が汚いので。下を拭いて部屋にお持ちします」

「あ……ごめんなさい」

 江古田さんは私が脱いだスニーカーをきちんと揃え、左側の廊下を手のひらで示し、「こちらでございます」と先立って歩き出す。

< 81 / 158 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop