若旦那様は愛しい政略妻を逃がさない〜本日、跡継ぎを宿すために嫁入りします〜
 おばあさまは、玄関を入ってすぐの応接室でブラウンの革のソファに座っていたが、そこに絢斗さんの姿はない。

「そこにお座りなさい」

 おばあさまは厳しい声色で、自分の対面のソファに着席させる。

「その容姿を絢斗さんがお気に召したのね。納得はいたしますが、あなたはずっと外国で暮らしていたそうね?」

「はい。ロスに」

「ロス? 私と話をするときは、略語は許しません。ちゃんとロサンゼルスと言いなさい」

 さっそく叱られてしまい、たかがそれくらいでと、あっけにとられる。

「わかりました」

「はい、と言えばいいの」

「あの、絢斗さんはどこへ?」

 私の質問がマズかったのか、おばあさまは片方の眉をピクッとさせた。

「私の前では若旦那さまとおっしゃいなさい」

「わかり――、はい」

 私は身をすくめた。

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