若旦那様は愛しい政略妻を逃がさない〜本日、跡継ぎを宿すために嫁入りします〜
「それは……結婚を約束した人がいるのかね?」

「んー、それならいないわ」

 母が亡くなって天涯孤独の身、温かい家庭に憧れはあるものの、結婚はおろか、お付き合いしたいと思える男性もいない。母が恋人に騙されたことから私は男性を信じられないでいた。

「そうか。よかった!」

 親しい男友達について聞くときは神妙な面持ちだったが、急に満面の笑みを浮かべる。そんな父に、私はなにかあるのかと訝しむ。

「前置きはいいから、早く話して」

「あ? ああ……実はな、わが社の命運にかかわることなんだ」

「命運……?」

 難しい日本語は苦手だ。

 そこへエビがたっぷり入ったサラダが運ばれてきた。

「食べながら聞いてくれ。命運とは……そうだな、この話はわが社が発展するかがかかっているんだ」

 父は二代続く着物のレンタルや販売を手掛ける会社を経営している。従業員が百人程度の中小企業だと聞いているけど、養育費も滞ることなく振り込まれていたし、母の高額な医療費もポンと出してくれたので、経営はうまくいっているのだと思っていた。
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