麗しの竜騎士は男装聖女を逃がさない


 つい、初見の図書に興味を惹かれて眺めていた、そのときだった。


「わっ、ここにも本が落ちていたのね」


 床に置かれた一冊の本に足が当たり、驚いた。危うく踏みつけるところだ。

 その本だけやけに古びており、麻紐で綴じられているため、正式な図書というより何かの資料であると推測できる。題名すら記されていない。

 好奇心に駆られて真っ黒な表紙をめくり、羅列された文字を見て眉をひそめた。

 うーん、読めないわ。これは何語かしら。

 そこには、手書きの文字が並んでいる。

 しかし、ヨルゴード国の公用語でもなければ、故郷であるサハナ国の文字でもない。

 どうやら意図的に暗号化されており、一般人には到底内容が理解できない仕掛けが施されているようだった。

 ふと、資料に別の紙が挟まっていると気づく。

 丁寧にちぎられた手帳の一ページらしく、万年筆の黒インクがにじんでいる。綺麗につづられた文字は見覚えがあった。

 これはハーランツさんの筆跡だ。誤って、手帳のメモ書きを挟んでしまったのかな。

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