麗しの竜騎士は男装聖女を逃がさない
『××年 十一月 五日 ラグネ惨禍』
それは、ちょうど二十年前の今日の日付だった。
並ぶ単語を目で拾ううちに、ただのメモ書きではないと察する。
『聖女がおさめるラグネ国は、人里離れた秘境に存在した。聖女を除く住民は竜人族であり、戦闘力、防御力ともに優れている。
竜の姿では杖の魔力に反応がみられ、適性がある可能性が高い』
初めて見るはずの文字なのに、なぜか書いてある文がスラスラ読めた。どこの国の言語かもわからないのに不思議だ。
どうやら、暗号を解読したメモらしい。
以下も文は続いているが、解読後に黒インクをぶちまけてしまったようで読み取ることはできなかった。
それが故意なのか不注意なのかは判断できないものの、几帳面な彼がうっかりインクをこぼしてそのままにするとも思えない。
そういえば、今日はハーランツさんの姿を見かけていない気がする。朝早くに私の朝食だけを用意して部屋を出て行ったきりだ。