麗しの竜騎士は男装聖女を逃がさない
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「私は一体、なにをしているんでしょう」


 一時間後、ボックス型に座席が並ぶ車内で独り言が漏れた。少し離れた席で車窓を眺めているのはハーランツさんだ。

 耳に入った情報を無視できずに駅まで来たとき、ちょうど彼が郊外行きの切符を買っていたところに遭遇したのが悪かった。

 偶然出会ってしまったのだから仕方がないわ。

 これは、オルデン団長の予想が合っているのかたしかめるだけ。デートを邪魔するつもりなんて、さらさらない。

 こっそり付いてきたのがバレたら、怒られるかしら。

 それにしても……。

 聞いていた通り、彼はささやかな花束を抱えていた。色鮮やかなブーケではなく、白く高貴な花はユリである。わざわざ都市で花束を買っていくとは、よほど大切な用事なのだろう。

 行き先はヨルゴード国の郊外で、さらに列車を乗り継いで都市から離れていく。

 車窓から広がる景色が緑豊かになっていくと同時に、かすかな違和感が胸に込み上げた。

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