麗しの竜騎士は男装聖女を逃がさない
昼からのデートならば、てっきり雰囲気の良いレストランへ、やや遅めのランチに行くと思っていたのに、移動だけでもう二時間が経っている。誰かと電話で連絡を取る様子もない。
それに、騎士の制服姿ではないハーランツさんは、シンプルで真っ黒なトレンチコートを羽織っていた。
端麗な容姿のため、なにを着ても映えるだろうが、デートにしては飾り気のないフォーマルスタイルである。
やがて、ハーランツさんは花束を片手に立ち上がった。列車は終着駅に着いている。
一日に数本しか通っていないであろう駅はどこか寂れていて、私達以外に降りる客はいないようだ。
彼は迷いなく舗装されていない道を進んでいく。
まずい、見失う。
普段は歩くペースを合わせてくれていたのだろう。気づかれないように距離を空けて追っているうちに、どんどん背中が遠くなり、ついて行くのが精一杯になる。
三十分ほど歩いたところで、鬱蒼と茂った森を抜けた。
開けた先にあったのは、折れた柱だ。雑草が生えて土が覆ってしまっているが、石が敷き詰められた地面が見える。