麗しの竜騎士は男装聖女を逃がさない


 時計塔の扉は錆び付いていていたものの、思いの外、簡単に開く。レンガ造りの螺旋(らせん)階段が壁沿いに続いており、天まで届きそうな高さである。

 自分の足音だけが塔に響いた。

 やがて最上部にたどり着き、展望台へと続く扉を開けると、冷たい夜風が頰をなでる。

 涼しくて気持ちがいい。古城のロマンティックな雰囲気にうっとりする。

 そのとき、月明かりが人影を地面に映し出し、月夜を眺める横顔が視界に入った。

 わっ、先客がいたんだわ。全く気が付かなかった。

 心臓が音を立てると同時に、先客がこちらを向いた。

 肩くらいまで伸ばした金髪をひとつにまとめ、高級そうな青地の服を着ている。なびくマントは赤い裏地に紋章が刻まれていて、仮面の奥に青い瞳がのぞいていた。

 顔が隠れていても、スッと通った鼻筋と形の良い輪郭、そして白くきめ細やかな肌から美形であるのがよく分かる。

 肩幅や体つきから男性だと見当がついた。髪や肌の艶、身柄そうな体躯から察するに、歳は三十代後半くらいだろうか? 若そうだけど、ハーランツさんよりは歳をとっているみたい。

< 152 / 233 >

この作品をシェア

pagetop