麗しの竜騎士は男装聖女を逃がさない
「おや。ここに人が来るとはな」
独り言が耳に届いた。
胸の高さほどの壁に頬杖をつく彼は、気品があって穏やかな口調だ。聞いているだけで心がふわふわする。
「ゲストの方……ですよね? 舞踏会には出られないのですか?」
「人に酔ってしまってな。ああいう場は苦手なんだ」
「すみません。それなら、僕、お邪魔ですよね」
「いや、いい。せっかくの機会に、ひとりで月を眺めるのも退屈だと思っていたところだから」
引き止められて、なんとなく彼の隣に歩み寄り、お互い壁に体を預けた。
「その騎士服、ヨルゴード国のものだね。君こそ、会場には行かないのかい?」
「僕はまだまだ下っ端ですから、城外の警備しか出来ないんです」
「それはそれは。寒空の中、ご苦労だな」
会話が心地よい。初対面のはずなのに、なぜだか心が落ち着く。何事にも動じない余裕と包容力を感じるせいだろうか。
「あの、お連れの方はいらっしゃらないのですか? 例えば、護衛とか」
「護衛はいないな。鬱陶しい。だが、参加する気のなかった私を利用して、ここへ同伴させたやつならいる」
「その方は、今どちらに?」
「はぐれてしまった。探す気もない」