麗しの竜騎士は男装聖女を逃がさない
あまり仲が良くないのかな? 一定の信頼関係はあるようで、ぞんざいな扱いにも怒ってはいないらしい。
そのとき、彼の大腿に携えられた短剣が目に入った。煌びやかな貴族の服の裾から、革のベルトで留められた物騒な代物が覗いている。
受付をした後、舞踏会の会場に入らずに時計塔へと来たのだろうか。本当に人混みが苦手なんだわ。
それなりに訓練をしてきたとはいえ、私はまだ剣の扱いにド素人だ。言霊の魔力を不用意にさらすのは避けたい。隣にいる彼が悪い人だったら、剣を交えて勝てるだろうか。
「安心しなさい。護身用の短剣は飾りさ。どうも命を狙われやすい立場で、部下に待たされているだけだ。どうせ私は死に損ないだしな」
「どういう意味ですか?」
彼は柄を握って引き抜き、革のカバーから研ぎ澄まされた刃が現れる。
目を見開いた瞬間、あろうことか、短剣の刃で自らの前腕をなでた。
切られた服に血が滲んだものの、まばたきのうちに傷が塞がっていく。
これは夢? とても人間技ではない。目の前の彼は何者なの?