麗しの竜騎士は男装聖女を逃がさない
左手の薬指に指輪が光っている。死に別れてからも一途に想い続けている彼は情熱的で、愛が海よりも深い。
今まで出会ってきた人と異なる特別なオーラを感じていると、彼は時計塔の下を眺め、わずかに目を細めた。
「ところで、アルティア君。君は城外の警備を任されている下っ端騎士だと言ったね」
「はい、そうです」
「どうやら、仕事の時間みたいだぞ。植物園をご覧。三時の方角だ」
壁からやや身を乗り出して注意深く見つめたとき、ランプの陰に身を潜めながら素早く闇を動く影が確認できた。
進む方向は、ザヴァヌ王の私室がある塔である。舞踏会のゲストにしては動きがおかしい。
塔には専属警備の先輩騎士が控えているものの、自分の任されたエリアで不審者を見つけたのだから、加勢に入るのが得策だろう。
塔へ侵入される前に捕まえなければ、私の信用問題にも関わる。
「まずい。足が速くて見失ってしまいそう……ハテナさん、話の途中で申し訳ありませんが、失礼します」
「ああ。今度会えたら、ゆっくり語り合おう。君の師匠にもよろしく伝えてくれ」