麗しの竜騎士は男装聖女を逃がさない


 お辞儀をして時計塔の螺旋階段を駆け降りる。その最中、別れ際の台詞が脳裏をよぎった。

 私、ハーランツさんの話をしたかしら? 下っ端騎士なら指導教官がいるのは当たり前だから、そう言ってくれたのかな。

 若干の違和感が頭をよぎったものの、すぐに振り払う。とりあえず今は、騒ぎが大きくなる前に侵入者を捕まえるのが先だ。

 時計塔を出てすぐに、レンガ造りの道を走る足音を耳が拾った。

 やけに身のこなしの軽い侵入者が、こちらと距離を離していく。崩れかけた塀に片手をついて飛び越え、まるで無重力の中を飛んでいるようだ。

 相手が武器を持っていたらどうする? 警戒しながら、先手を取るしかないわ。

 標的は植物園に逃げ込んだらしい。 

 月明かりに照らされて、その人は立っていた。

 王族のような煌びやかな青地の服に、ファーの付いた高貴なマントを羽織っている。仮面をつけているため顔は見えないけれど、すらっとした筋肉質な体躯から、男性のようだ。

 侵入ルートを思案しているのか、ザヴァヌ王の私室がある塔を眺めていた。

 今だ!

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