麗しの竜騎士は男装聖女を逃がさない
変だなあ。昨日の夜、ちゃんと鞄に入れたはずなのに、午前の訓練が終わったらなくなっているなんて。
ハーランツさんになくしてしまったと謝らなきゃ。一体、どこにいってしまったんだろう?
寮へ向かう途中、渡り廊下から同期の新人たちが中庭のベンチにいるのが見えた。その中のひとりが手にしているのは、パッチワークのブックカバーがかけられた本である。
「あっ! 僕の教科書!」
目を輝かせて駆け寄る私に、新人たちはギョッと顔をこわばらせた。
「よ、よぉ、アルティア。これ、お前の教科書だったのか?」
「そうそう、探していたんです。どこに落ちていたんですか?」
「あー、武道場の近くだよ。午前の訓練に持っていって、忘れたんじゃないか?」
「なるほど、拾ってくれたんですね。助かりました」
にこやかに感謝を伝えたつもりだったのに、なぜか相手はバツが悪そうだ。
同期の新人たちとは仲良くなった覚えはないが、体術の訓練で手加減なく相手をしてくれたり、わざと重い荷物を配分して筋トレを手伝ってくれたりする。
私が周りに比べて体格が小さくて、筋肉量も体力もないとわかっているから気づかってくれるのかな。