麗しの竜騎士は男装聖女を逃がさない
めまいがして、つい額に手が伸びた。
ヨルゴードの騎士団は、知らない者がいないほど名が知れ渡っている。十の小隊から編成される実力主義の組織で、戦地では敵なしの強者ぞろいだと聞く。
その騎士団の統率をとり、より強い者を選別しているのがザヴァヌ王だ。彼はなによりも力を優先して、役に立たない部下は容赦なく切り捨てる。
そんな恐ろしい男の元へ嫁ぐ未来が幸せであるはずがない。
きっと、ザヴァヌ王は私の力を思いのままに利用する気なんだわ。こんな呪いみたいな力、一生使いたくないのに。
かと言って、ここで断る意思を使者に伝えて帰せば、ザヴァヌ王がどんな暴挙に出るかわからない。
言い表せないほどの苦しみを抱えながら目の前へ視線を向けると、不安げなロウの表情が見えた。
私の苦悩を理解しながらも、生まれ育った故郷を守りたい気持ちの中で揺れている。
二十年前、親のいない私を拾い、育ててくれた優しい人。聖女の持つ力を知っても、怖がらずに接してくれた民。
そんな人たちに恩返しをするときが来た。