麗しの竜騎士は男装聖女を逃がさない


「大丈夫よ、ロウ。そんな顔をしないで。暴君と言っても噂だけかもしれないわ」


 サハナ国は私が守るんだ。ずっと、そうしてきたんだから。説得をすれば、言霊の魔力を悪用しないでいてくれる可能性だってある。

 全てを察したロウが引き止めようと手を取ったが、すがるような視線に微笑みを返し、そっと手をほどく。

 そして、ふたりの騎士の前に凛と立った。


「婚約の話、お受けしましょう。私をヨルゴードまで連れて行ってください」


 きっと、話せばわかってくれる。ザヴァヌ王に会って確かめるんだ。

 なぜ、私に目をつけたのか。力を我が物にしたいのならば、何が目的なのか。

 言霊の魔力を使えば、それこそ簡単にザヴァヌ王の言動を統制できるだろうが、私は力で縛りはしない。心根を変えるのは難しくても、時間をかけて彼を暴君から立派な君主に導いてみせる。

 せっかく夫婦となるのなら、ちゃんと彼に向き合って、対話を通して更生してもらいたい。

 決断を聞いた使者達は深々と頭を下げた。このとき彼らの手が震えていたことに、私は全く気がつかなかったのである。

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