麗しの竜騎士は男装聖女を逃がさない
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 馬車の窓の向こうで景色が流れる。

 ヨルゴード国の使者に連れられるまま、サハナ国を出て二時間が経った。

 北の目的地まではまだだいぶ距離があり、辺りは草木の生えない岩肌が続いている。

 少し馬車の軌道がズレれば隣はすぐ崖で、車輪を大きく揺らす悪路は決して乗り心地の良いものではない。

 こんな急に故郷を離れるとは思わなかったわ。ちゃんと民に別れを告げる暇もなく馬車に乗り込んでしまった。

 そもそも、一国の王が婚約を申し込むというのに、事前の連絡もなしに使者を送り込んで強引に呼び寄せようとするなんて非常識すぎる。

 噂通り、ザヴァヌ王は横暴な男性なのかしら。

 ヨルゴード国の情報を聞き出そうにも、目の前に座る使者はこちらを気づかう素振りなど一切なく、硬い表情で黙り込んでいる。

 やがて、私の心中と重なったように曇天が雨を降らせ、辺りは土砂降りとなった。

 ただでさえ悪路なのに雷まで鳴り出して、先行きに不安しかない。

 そのとき、馬車がぴたりと止まる。


「すみません、聖女様。この先の道で土砂崩れがあったようです。迂回路を探しますので、馬車の中で少し待っていていただけますか」

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