麗しの竜騎士は男装聖女を逃がさない
隠れ里でのふたりの夜
「よぉ、子猫。ハーランツとは進展したか?」
武闘会から一週間後の訓練中。木陰で給水をしていた私の元に、イグニス副団長がやってきた。
周囲に人はいないものの、突然の爆弾発言に、つい、飲みかけの水筒を落としそうになる。
「ハーランツがわざわざ俺のところに、お前の素性を口にしないよう釘を刺しにきたぜ。あいつ、クールな顔してベタ惚れじゃねえか」
「べ…ベタ惚れとは違うと思います。私たちはただの師弟関係ですので、根拠のない仮定はハーランツさんのご迷惑になりますし、控えてください」
「ははっ、そうだったな。一番の愛弟子なんだっけか。今さら取り繕わなくてもいいのによ」
なんということだ。
ボロが出るのを危惧して、あえて濁して伝えたせいで、実は付き合っているのに師弟関係を装っていると勘違いされている。
私の素性がバレないように裏で手を回してくれていたのも気づかなかった。