エリート外科医の不埒な純愛ラプソディ。
窪塚があまりにあっけらかんとしているもんだから、なんだかバカバカしくて、もう怒る気にもなれない。
正確には、高密着状態から開放されてホッとしてしまっているんだろうと思うが。
それで気をよくしたのか、窪塚から、実に意外な提案を持ちかけられた。
「この前は、相性良かったから思わずセフレになろうなんて冗談言ったけど、マジでならないか?」
なんだ、この前のセフレの話は冗談だったんだ。
それならそうと早く言いなさいよ……って、そうじゃなくてッ!
人のこと馬鹿にすんのも大概にしろっつーの!
父親が神の手だってだけで、ちょっと一目置かれてるからって。
ちょっと女子にモテるからって。
ふざけんなッ!! このクズ男!!
むしゃくしゃした私が窪塚の背中を思いっきり平手で叩くと。
「ーーッ!?」
一瞬、その場でピタリと静止し苦悶の表情を決め込んですぐに一歩ほど私から飛び退いた窪塚が背中を片手で押さえつつ。
「おいッ!! なにすんだッ!! いてーだろうがっ!!」
「あんたが悪いんでしょーがッ!」
私のことをさっきと同様、柱の側面へと片腕だけでマッハで追い込んできたけれど、私だって負けてはいない。
睨むことしかできなかったさっきとは違って、晴れて自由となった口でも応戦しているところだ。
けれども運の悪いことに、気づいた時には、騒ぎを聞きつけてというよりは、腹ごなしからちょうど帰ってきたらしい、あの外科医の輩たちに取り囲まれた後だった。
ちなみに、ここに私たちが留まっていたのは、おじさんが居たのも合わせて、おそらく二十分とかかってはいないだろう。
昼夜関係なく仕事に追われる、医者という職業柄、私も含めて、短時間で食事を摂るスキルが自然に身についている。
そのスキルが、今日ほど仇となる日が来ようとは夢にも思わなかった。