エリート外科医の不埒な純愛ラプソディ。

 俺がそうしたいと思うようになったきっかけは、身近にいた親父だったが、もう一人、俺に影響を与えた人物、如月《きさらぎ》優《ゆう》の存在があったからだ。

 俺の親父の妹夫婦(義弟•脳外科医)の長男だった優には六つ上の姉が、同じく俺にも六つ歳の離れた兄貴がいたことから、気もあったし、実の姉兄よりも一緒に遊ぶことが多かった。

 同じ年ではあったが、その頃小児喘息を患っていて身体も小さくひ弱だった俺なんかより、身体も大きくて、性格も明るくて、しっかりしてて、面倒見もよく、俺にとっては頼れる兄貴のような存在で。

 物心ついた頃から、何をするにも一緒で、よくお互いの親父の職場である窪塚総合病院の待合のプレイルームや談話室などでよく遊んだものだ。

 それが、ある日突然、不幸な事故によってこの世からいなくなってしまい、幼いながらにショックだったのを今でもハッキリと覚えている。

 けど、そのことがあったから、今の自分があるといってもいい。

 いつか外科医になるという夢を果たせなかった優のためにも、立派な外科医になってやるーーその想いがあったからこそだ。

 それが、まさか、高梨のことを助けたのが優だったとは、皮肉なものだ。

 これまでの俺がそうであったように、高梨も、優のことを今もずっと忘れずにいて。

 だからこそ、あんなにも外科医になることに拘ってたんだと高梨から聞かされたときには、正直ショックでしかなかった。

 もしかしたら、優が高梨と巡り合わせてくれたんだろうか。

 そう勝手に捉える一方で。

 高梨のなかで、綺麗なまま色褪せることなく、ずっと輝き続ける優には、到底、敵いっこない。

 元々、俺は高梨には嫌われていたんだし。やっぱり諦めるしかないのかとも。

 それでも、どうしても諦めきれない自分がいて。

 プチ同窓会があったあの日、高梨と初めて一緒に過ごしたあの夜、こうなったのも何かの巡り合わせかもしれないし、この機会に、どうせ嫌われてるなら、とことん嫌われて、嫌われ抜いて、そうしたら今度こそ諦められるだろうと心に決めた、あの夜とは真逆のことを考えもした。
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