エリート外科医の不埒な純愛ラプソディ。
その時に、不思議そうに首を傾げつつも、向けてくれた柔らかな笑顔と、鈴という名前同様の、鈴の音のような、なんとも可愛らしい甘やかな響きの声音に、俺はあの瞬間、心ごと囚われてしまったに違いない。
全身がカッと熱くなって、胸がギュッと鷲掴みにでもされたかのような、あんな感覚は初めてだった。
医大に入ってからは、美麗な容姿だけでなく、シッカリと自己主張できる気の強さとのギャップにも惹かれ、気づけば無意識に目で追ってしまっていて。
けれど、意識しすぎて、まともに話すことさえできないという、なんとも情けない有様だった。
今にして思えば、高梨からすれば、そんな俺の素っ気ない言動は、快いものではなかったのだろう。
そのうち、座学は得意でも、血が苦手なために、人体での解剖実習がネックだった高梨が実習で面倒見がよく気さくな藤堂とペアを組んだのを機に、やがて付き合うようになったことで、高梨との距離は開くばかりだった。
それが今、念願叶って、ようやくここまで近づけたんだ。今更諦められるかよ。
ーーもう、こうなったら、とことん頑張ってみて、それでもダメなら、今度こそキッパリ諦める。
そのつもりだったのに……。
これまで以上に仕事が忙しくなってきて、高梨ともなかなか逢えなくなって、頑張ろうにも何も行動に移せないまま無情にも時間だけが過ぎて、高梨への想いだけがどんどん膨らんでいった。