エリート外科医の不埒な純愛ラプソディ。

 それから医局に戻った俺は、自席で電子カルテと向き合いながら、これからのことを思案していたのだが。

 そこへ、ちょい悪系イケオジを目指しているらしい譲院長譲りの実に明るい脳天気な声が俺の思考に割り込んできたことで。

「おう、窪塚。お疲れ~。今日は隼さんと鉢合わせしたんだって? 彼女の父親と対峙してる途中に、急患で呼び出し食らうなんて。ほんと災難だったよなぁ」

 ーーやっぱ、筒抜けじゃん。

 これはもう可能性じゃなく、譲院長が俺のことを高梨の父親に話していると確信した俺は、目の前のデスクにぐったりと雪崩れ込むようにして突っ伏したまま顔だけで振り返り、ついうっかり嫌味を零してしまっていた。

「……ははっ、お疲れさまです。相変わらず地獄耳ですねぇ、樹先生は」

 けれども、たった今医局に入ってきた上級医である樹先生は少しも気にとめることなく、愉しそうに俺のすぐそばまで来ると、人懐っこい笑顔を振り撒きつつ。

「ほら、これでも飲んで、元気出せよ。隼さんは、鈴のことになると鬼畜みたくおっかなくなるけど。根はとっても穏やかで優しい人だから心配ないさ」

 そう言ってくるなり、俺の肩にぽんと手を乗せてから、ここ最近はまっているらしい、毒々しい色をしたエナジードリンクの缶をデスクの上に置いてくれた。

 その毒々しい色のドリンクの缶にチラッと視線を向けながら。

 樹先生が言ってきた『根はとっても穏やかで優しい人』というのに対して。

 ーーあれはどう見ても、鬼畜そのものにしか見えなかったけどなぁ。

 なんて思いつつも、譲院長と樹先生を通してこっちの行動が筒抜けなら、逆にそれを利用する手もあるよなぁ。

 俺はふとそんなことを思っていた。
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