エリート外科医の不埒な純愛ラプソディ。
そうこうしているうちに、気づけば季節は晩夏。
八月も半ばを過ぎてはいるが、世間はまだまだ夏休みで浮かれてるというのに、高梨に近づくことさえできないでいる俺の心は沈んだままだった。
今日も朝からオペが立て込んでいて、いつものように樹先生の助手として、脳血管バイパス術のオペをついいましがた終えたばかりだ。
早々に医局に戻った俺は、つい先ほどのオペの手順を脳裏に思い浮かべつつ自席でノートパソコンに向き合い、オペ中の詳細を入力していた。
オペに助手として執刀し、実際にこの目で見て、オペの技術を学ぶのも大事だが、その手順などを詳細に記したオペレコ(手術症例の術中所見や手術手技についての公式記録)を残しておくことも外科医にとってはとても重要なことだ。
科の垣根を超えた同僚医師や看護師などの間で情報を共有するのに用いたり、術前診断や病理診断、外科医の育成やオペ前のシミュレーションというように様々な場面で活用されている。
海外では、文章だけで記録されているものらしいが、日本ではイラストを用いるのが慣例だ。
昔は手書きで描かれていたらしいが、電子化が導入されている昨今では、テンプレやデジタルイラストがあるためとても重宝している。